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… あるいは http://d.hatena.ne.jp/kmiura/ …

吉野恭司という人

吉野恭司という経産省のキャリアが報道の対象になっている。

エネ庁課長:原子力委に脱原発検討しないように要請
毎日新聞 2012年08月03日 11時18分(最終更新 08月03日 11時43分)

 経済産業省資源エネルギー庁の吉野恭司原子力政策課長が昨年12月、政府の原子力委員会に対して「脱原発シナリオの分析を行うことは、慎重派を勇気づける材料にはなっても、原子力を維持する材料にはならない」などとする文書を示し、脱原発の検討を当面控えるように要請していたことが3日分かった。枝野幸男経産相が同日の閣議後記者会見で明らかにした。枝野経産相は文書について「個人的に作成されたメモ」としながらも「政府が原発維持を画策していると受け止められてもやむを得ない」と指摘した。経産省は同課長を厳重注意処分とした。

 経産省によると、同課長は昨年12月、原子力委員会の近藤駿介委員長を訪問。東京電力福島第1原発事故を受けて、原子力委が設置した核燃料サイクルに関する検討小委員会の議論の進め方を話し合った際、同課長は政府が将来の原発依存度をどうするかの方針を決定する前に、原子力委が「脱原発」シナリオを前提に核燃料サイクルのあり方を分析・議論することを控えるように求める文書を渡した。同課長は経産省の内部調査に対し、「大変反省している」と話しているという。【小倉祥徳、種市房子】
http://mainichi.jp/select/news/20120803k0000e040205000c.html

原子力村の中では「事務局」と呼ばれる人である。原発事故に関連していろいろな資料を昨年ながめて「事務局」は事実上さまざまな議論の枠をあらかじめ設定するという意味で、政策のおおまかな方向を決める人たちだ、ということがわかったので、私は興味をそそられた。「事務局」という無害な呼称は全くの韜晦で、彼らが執行部と考えたほうが実態に近いだろう。そんなわけで私は一時期「事務世界」という、その外部の世界とは独立の価値観で駆動する官僚システムに名前をつけた。

というわけで、吉野恭司という人間に少々興味が湧いたので、経歴を眺めてみた。もちろん履歴書など公開されているはずもないので、時系列で彼がかかわったイベント追っただけのメモ、ということになる。

吉野恭司の足跡は2000年に始まる。当時は原子力とは関係ない仕事をしていた。生活産業局サービス産業課にいたのである。「男女共同参画に関する研究会」の報告書に事務方として名前が登場している。2001年には秋田県庁に出向し、産業経済労働部の部長となり、県内の商工会議の議員などを務めている。2004年5月からは経産省に復帰、こののちに(直接かどうかわからないが)資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室長となり、原子力に本格的に関わることになる。秋田にいた時からすでに中央の原子力安全に関わる部局の鉱山関連の審議会に参加していたようであるから、この昇進はある程度すでに決まっていたことなのかもしれない。

さて、東京にもどった吉野恭司は「放射性廃棄物を捨てる場所を探す」ことが彼の任務となった。もちろん、誰もが自分の住む地域を原子力発電所のゴミ捨て場なぞにしたがるわけがない。したがって、あちらこちらの地方で説得して回るのが彼の仕事となったのである。ついには2006年から7年にかけては、市民に対する説得をおこなう「地層処分シンポジウム Talk」を全国各地で企画実行している。ウェブサイトなどはなかなか立派な様子であるが、参加した人のコメントなどを紹介してみよう。

それはどうやら、市民側パネラーもみんな同じような気持ちだったようで、
企業利益を代表する市民としてと出席していた橋本さんでさえ、
広報は自己満足では困る、これで理解されたとは思わないで欲しいと発言。
分家さんは不快な面もちで、原子力発電の安全性に対する疑問を言われたし、
吉田さんなどは、日本のエネルギー政策の行方にさえ疑問があると発言された。

資源エネルギー庁の吉野さんは、こうした疑問には一切答えずに、
ひたすら地層処分の安全性と市民の合意をくり返されるばかりの状態でした。
なるほど、うっかり一般参加者からの質問を受けても答えられない、
根本的な疑問を抜きにして、ひたすら地層処分の合意を取りたい、
そのためのシンポジュウムだったことがよくわかりました。

放射性廃棄物地層処分シンポジウム
http://blogs.yahoo.co.jp/isop18/45230527.html

人々のものわかりのわるさにはかなり困惑したらしい。とはいえ、彼自身、原子力にかかわってたったの三年である。工学から地質学まで、10万年にわたる安全を確保するために膨大な知識を必要とする放射線廃棄物の処理技術について、誰もが納得する説明を彼がなすことはかなり難しいだろう。結局金を渡すしかないかも、というのが彼の意見である。

国は難航する高レベル処分場立地を後押しするため、文献調査期間中の電源立地地域対策交付金の金額を現行の年2億1千万円から2007年度に年10億円に大幅増額する予定である。このため余呉町以外にも昨年後半から鹿児島県宇検村、高知県津野町、同県東洋町、長崎県対馬市、青森県東通村などで誘致の動きが表面化するに至っている。
 映画「六ヶ所村ラプソディー」では、原子力委員を務める斑目春樹東大教授が「処分場は金を5倍、10倍と積めばどこかが落ちる」との発言をしている。吉野恭司資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室長も、韓国で中低レベル放射性廃棄物の処分場の立地が3000億ウォン(約380億円)という法外な地域支援金によって慶州市に決定したことを例に挙げ「ぜひ見習っていかなくてはいけない。」と発言(注2)している。

(注2) 2006年10月6日「放射性廃棄物シンポジウム2006in中国」での発言 
http://homepage3.nifty.com/ksueda/waste0701-2.html

人々の評判はともかくも、これら一連の大々的なキャンペーンが評価されたのか、2007年には電源基盤整備課長に出世。総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会に委員として出席したり、「エネフォーラム」なる雑誌に寄稿したりしている。2009年後半から2010年の前半の間に、原子力政策課長に昇進。ほどなく2011年の311を迎えた。これまでキャリア官僚の順当な道を歩んできたならば、今、年齢は30代後半ぐらいだろうか。 (訂正:2012年現在47歳。おそらく1964年うまれ。80年代バブルのころに大学生である。)

足跡をおうと、目の前にある課題を必死でこなしてきたのではないか、という気がする。それこそが「事務の世界」の陥穽だ、と私は考える。これが本当に彼のしたかったことなのかどうか、個人的に聞いてみたい気がする。「仕事ですから」と答えるかもしれないが。

   8/13 追加。新潟日報の2008年の記事、および東洋町の町長さんによる吉野氏の印象。年齢の推定の訂正。



通商産業省生活産業局サービス産業課課長補佐

MMP(Medical Management Partner)2000年7月号に次のエッセイ。

市場化の進展がもたらす新たな課題
事業者・サービスの選択が始まり経営管理のあり方が問われる
介護保険制度の施行が 産業としての出発点に
現行制度がゆがめる 経営管理手法の導入
http://www.web-ksk.co.jp/information/_book_sample/back/nik/mmp7/mmpseido1.html

平成13年6月「男女共同参画に関する研究会」報告書に、(前)として名前がある。
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g10615bj.pdf
2000年の年末まで通商産業省生活産業局サービス産業課課長補佐だったのだろう。



秋田県庁産業経済労働部長

2001年1月-2004年5月31日 秋田県庁産業経済労働部長
http://www.chuokai-akita.or.jp/kaihou/494/toku2.html

2003年ごろには秋田
http://gikai.pref.akita.lg.jp/read_detail.phtml?division=%88%CF%88%F5%89%EF&name=%95%BD%90%AC%82P%82T%94N%82P%82Q%8C%8E%92%E8%97%E1%89%EF%81%40%8F%A4%8DH%98J%93%AD%88%CF%88%F5%89%EF&sdate=2003-12-11&day=3



資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室長

放射性廃棄物に関わる役職に着いてから一年半後には次のような雑誌記事を公表している。

  • 月刊エネルギー 11月号 (2005年10月28日発売)
    • 高レベル放射性廃棄物の最終処分を巡る動向 吉野 恭司

幌延深地層研究センターの安全祈願(2005年11月9日)には役職名で出席している(PDF)。

廃棄物関連の講演会を原子力環境整備促進・資金管理センターで行っている。

公益財団法人 原子力環境整備促進・資金管理センター

  • 平成17年度 賛助会員向けサービス実施状況(平成18年3月30日現在)PDF
  • 2005年6月6日 第一回講演会「原子力2法の概要-再処理積立金法、クリアランス制度等について」
    • 経産省:吉野 恭司氏、茂木 伸一氏
  • 2006年1月25日 第4回講演会「放射性廃棄物対策の現状と課題」
    • 経産省:吉野 恭司氏

このような啓蒙活動はさらに市民の説得に向けて拡大する。地層処分シンポジウムという「市民との対話」を企画実行し、2006年7月から7年2月にかけて、全国各地を行脚した。

2007年頃におきた高知県東洋町の住民との激しい交渉の過程ではあちらこちらで顔を出す。あからさまに金で住民を説得しようとする態度が反感を買っている。

私は、平成19年の冬、1月頃、町長選挙の前に東洋町の高レベル放射性廃棄物導入事件でエネ庁の吉野恭司に会いに行った。

確か町会議員の原田英輔氏も一緒であった。核廃棄物の地下埋設の責任者、・・・室長であった吉野と地下埋設の危険性について激しく論争した。きゃつは席を立って去ろうとしたので、私が、吉野、逃げるのか、とエネ庁舎を揺るがすほどの大声でどなったことを思いだす。

東洋町への核廃棄物導入はNUMOという団体が担当のはずであったが、実際はこの吉野恭司が主導的役割を果たしていた。それまで核を受け入れた自治体に2億円程度の地域支援金が配給されることになっていたが、10億円に跳ね上げてきた。その時の責任者が吉野恭司であり、徹底的な金権主義者であった。金で攻めるというのが吉野の作戦だった。
吉野は、高知県の私立進学校出身だともいわれている。

吉野のような頑迷な原子力教の信者が、経産省に牢乎として存在していて、福島原発の事故を見ても少しも動揺していない姿には驚かざるを得ない。
原子力推進が彼のキャリア形成の武器なのである。

高知県東洋町長沢山保太郎さんの記事より。
http://sawayama.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-f29f.html

高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設に向けた第1段階調査(文献調査)に
高知県東洋町が応募したのを受け、同県の橋本大二郎知事と隣接する徳島県の
飯泉嘉門知事は6日、原子力発電環境整備機構と資源エネルギー庁を訪ね、
東洋町での調査を実施しないよう強く求めた。

 両知事は午前9時半、東京都港区の同機構で山路亨理事長に会い、調査反対の申し入れ書を手渡した。橋本知事は「地域の理解を得られておらず、調査に入ることがあってはならない。県や町民が反対してもカネ(年間10億円の交付金)で解決するのが国の原子力政策でよいのか」と強く反対を主張。飯泉知事も「生活圏は東洋町と一体だ。応募の受け付けは白紙に戻して欲しい」と求めた。
 山路理事長は「地域に十分説明した上で慎重に対応したい」と答え、会談後、当面は国に対し、調査実施の申請手続きを進める考えを示した。
 両知事は午前10時過ぎ、千代田区霞が関で同庁の望月晴文長官にも同様に調査反対を訴えたが、望月長官は「機構から調査実施の申請があれば、国として適切に判断したい」と述べるにとどまった。

 会談後、同庁の吉野恭司・放射性廃棄物等対策室長は「放射性廃棄物処分場へのアレルギーは強く、安全と説明するだけでもハードルは非常に高い。(カネで解決するという)交付金制度への批判はわかるが、現状では必要ではないか」と理解を求めた。

http://kuroki53.exblog.jp/5085949/



電力基盤整備課長

総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会の記録によると、2007年9月には着任、と書いてある。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g71218a06j.pdf

エネルギーレビュー 2007年9月20日発行 Vol.27 10 (321)
国の取り組み 原子力施設の円滑な立地に向け地域発展の政策支援を
資源エネルギー庁 電力基盤整備課長
吉野 恭司
http://www.erc-books.com/ERC/ER/ER-BackNo2007/ER07-10.html

エネルギーレビュー 2008年4月20日発行 Vol.28 5 (328)
水力発電の新展開に向けて
資源エネルギー庁 電力基盤整備課長
吉野 恭司
http://www.erc-books.com/ERC/ER/ER-BackNo2008/ER08-5.html

2007年に起きた中越沖地震ののちには、柏崎刈羽原発の「運転円滑化」にテコ入れするため、電源立地地域対策交付金を3倍に「えいやっ」と増額している。

2007年7月の中越沖地震柏崎刈羽原発が長期停止に追い込まれている東京電力。首都圏への電力供給を担う原発被災の影響は大きく、08年3月期決算で28年ぶりの赤字転落は必至の情勢だ。東電はこの難局下で、県に対し復興支援として30億円の寄付を決断した。国も柏崎市刈羽村への交付金増額という異例の措置を敢行。地元では2つの支援策を歓迎する一方、運転再開への布石とみる向きもある。巨額マネーが投じられた狙いは何か-。当事者の間でさまざまな思惑が絡み合う背景を探った。

    • -

2007年11月27日。国は、中越沖地震で被災した東京電力柏崎刈羽原発の立地自治体への特例措置を発表した。関係者の間で「新潟スペシャル」と呼ばれる復興支援策だ。

 柏崎市刈羽村に対し電源立地地域対策交付金を同年度に限って3倍に増額、それぞれ約39億円、23億円としたのである。

 「通常のケースではできないが、日本の電力を支える地元が被災し、緊急性があった。最終的には『えいやっ』と決めた」。経済産業省資源エネルギー庁で交付金を担当する電力基盤整備課長の吉野恭司(43)は説明する。

 交付金は本来、電源開発に伴う公共施設整備などに使うのが目的。1974年の制度開始以来、災害復興支援に初めて適用したのだ。

 経産相の甘利明(58)は同日の会見で、特例措置について「やるから早く運転しろとか、運転再開しないままだからやらないとかでは全くない」と強調した。

 だが、今回の対応は交付規則を改正してまで行ったもの。柏崎刈羽原発の立地地域への並々ならぬ姿勢がうかがえる。改正規則を詳しく見ると、国の思惑が鮮明に浮かび上がる。
(後略)
新潟日報社2008年3月1日記事

総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会の6月18日付記録には名前がある。
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/13.html
したがって少なくとも少なくとも2009年6月までは電力基盤整備課長。



原子力政策課長

2009年6月18日から2010年3月5日までの間に原子力政策課長になって現在に至る。311が起きてから対応に追われている様子は事業計画書などからうかがわれる。

エネルギー対策特別会計
http://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2012/reviewsheet_chukan.html

発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備委託費 平成24ー30年度
東京電力福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、シビアアクシデント対策を中心として事業者側と規制側の双方が活用しうる安全対策高度化に資する技術基盤の整備を国主体で実施する。
既設原子力発電所の安全対策高度化に資する技術基盤の整備を通じて、我が国における原子力発電技術の水準向上を図る。
http://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2012/pdf/h24_0073.pdf

平成24年行政事業レビューシート
発電用原子炉等安全対策高度化技術開発費補助金 平成24ー30年度

東京電力福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、既設原子力発電所の安全対策高度化に資する課題について技術開発を支援する。既設原子力発電所の安全対策高度化に資する技術開発の支援を通じて、我が国における原子力発電技術の水準向上を図る。
http://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2012/pdf/h24_0074.pdf

平成24年行政事業レビューシート
発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金(復興関連事業)

本事業は、東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置に資する技術開発を実施し、事故対応に必要な技術を確立することにより、万が一、既存の原子力発電所等において福島第一原子力発電所と同様の事故が発生した場合においても、速やかな事故収束及び廃止措置対応を取ることができるよう、必要な技術開発を図るものである。
東京電力福島第一原子力発電所において、燃料デブリが原子炉建屋下部に堆積していると見込まれる状況における、燃料デブリ取出し準備のための機器・装置開発等を実施する。
※24年度は復興庁で一括計上し、経済産業省で実施する事業。

ほかにもいろいろあるのだが、IAEAに査察してもらうのも「東日本大震災復興予算」の枠にはいっているのかー、などど、オドロキがあった。



2012年には以下の講演
2012 年 3 月 20 日 原子力政策に関する国内外の動向と今後の課題
http://www.aesj.or.jp/~kaigai/_lecture_/%E7%AC%AC%EF%BC%94%E5%9B%9E%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf

原子力安全規制についても①重大事故対策の強化、②事後規制の許認可施設への適用等、③運転期間の制限等、④発電用原子炉施設に対する安全規制措置の導入、等が議論され、導入されようとしている。一方で、世論により、規制に関する合理的な議論ができなくなることも懸念される。

このあたりの文面に彼の苦々しい思いを垣間見ることができる。処理場を探して全国を行脚したときの人々の冷たい目が脳裏にやきついているのかもしれぬ。



毎日新聞が2012年05月24日にスクープした核燃料サイクルに関する”秘密会議”(以下の記事参照)にも当然吉野氏は出席している。「秘密ではない」という内閣府原子力政策担当室の反論が6月4日に出ているが(PDF)、記事にならなければその実態は知られることはなかっただろう。

核燃サイクル「秘密会議」:まるでムラの寄り合い
毎日新聞 2012年05月24日 02時30分(最終更新 05月24日 18時52分)


4月24日の秘密会議(勉強会)に配布された議案の原案。表紙の右上には「取扱注意」と記載されている
拡大写真
 扉の向こうに信じがたい光景が広がっていた。4月24日、東京・霞が関で開かれた「勉強会」と称する核燃サイクルを巡る秘密会議。一線を画すべき国家公務員と電気事業者が談笑する様は、まるで「原子力ムラ」の寄り合いだ。参加者の手元にはなぞの文書が配られる。取材班は後に内閣府原子力委員会の小委員会で示される報告案の原案だったことを突き止めた。【核燃サイクル取材班】

 ◇反対派批判、一斉に笑い
 4月24日午後5時前、東京・霞が関の中央合同庁舎4号館7階743会議室。開けっ放しのドアから三々五々、背広姿の男たちが入室していくのを記者は目撃した。原子力委員会、内閣府、経済産業省資源エネルギー庁電気事業連合会、日本原燃、東京電力……。反対・慎重派の姿はなく、推進派ばかりだ。

 青のワイシャツ姿の男が脇に書類の束を抱えて入室してきた。机にどんとおろす。一山にすると崩れるからか二山に分けて置いた。高さは片方が20センチ、もう片方が10センチぐらいだろうか。後に判明した事実によると、文書は「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」の報告案の原案。実際に審議されたのは14日も先だ。

 2人の内閣府職員が「ロ」の字に並べられた机の上に1部ずつ原案を配布していく。電事連幹部らが笑顔で受け取る。扉のすぐそばに座っている高速増殖原型炉「もんじゅ」を運営する「日本原子力研究開発機構」幹部は熟読していた。やがて雑談が始まり、1人が反対派の論客である環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長らの名前を挙げ批判すると、一斉に笑い声が起こった。

 午後5時10分、開けっ放しだった会議室のドアが静かに閉まり、秘密会議が始まった。関係者によると、青森県六ケ所村の再処理工場を運営する「日本原燃」幹部が再処理事業の生き残りを意味する「再処理・直接処分併存(併用)」政策で小委員会の議論をまとめるよう依頼した。「六ケ所をやめて直接処分にするとあちこちが大変になる」と強調する幹部。再処理事業が破綻すると、六ケ所村に貯蔵中の約2919トンの使用済み核燃料は施設外に搬出しなければならないとされる。

 小委員会は今月23日、新大綱策定会議に併存に有利な表現の並んだ「総合評価」を盛り込んだ取りまとめを報告した。経産省関係者は「再処理しても最後はごみを捨てなければならない。政府と役人が一体となって最終処分場を造るために汗を流さなければならない時に、時間稼ぎに過ぎない政策を推進している」と嘆いた。

 ◇「うっかり」は通用しない
 長期的な原子力政策を論議する「新大綱策定会議」(議長・近藤駿介原子力委員長)の議案が原発再稼働の妨げになるとして隠蔽(いんぺい)された問題を毎日新聞が報じた(8日朝刊)際、近藤氏は主に二つの理由から「問題ない」との見解を示した。しかし、秘密会議問題で発覚した経緯に照らすと、今度は同じ弁明は通用しない。

 議案隠蔽問題は4月19日、事務局の内閣府職員が「(原子力と)地域社会との共生」と題した同24日の策定会議の議案を経済産業省資源エネルギー庁電気事業連合会に渡したところ「『(地域には再稼働に慎重な)滋賀県は含むのか』と追及され策定会議が紛糾する」と言われ、この議案をとりやめたというもの。

 近藤氏は電気事業者に渡った点を不適切としながらも「議案ではなくメモ。議案なら(パソコンのプレゼンテーションソフトである)パワーポイント形式にする」「事務局がメモをうっかり電子メールで流してしまった」などと釈明した。

 しかし今回発覚した秘密会議疑惑で配られた原案はパワーポイント形式。さらにメールではなく会議室で事業者に手渡している。所管大臣である細野豪志原発事故担当相は議案隠蔽発覚時、近藤氏擁護論を展開した。対応が注目される。【核燃サイクル取材班】

 【ことば】原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会

 東京電力福島第1原発事故を受け、使用済み核燃料の再処理政策を見直すために内閣府原子力委員会が設置した有識者会議。原子力委員長代理の鈴木達治郎座長と大学教授ら計7人が昨年10月〜今月16日、計15回議論した。政府のエネルギー・環境会議は夏にも革新的エネルギー・環境戦略を打ち出す方針で、小委員会の取りまとめは経済産業省の総合資源エネルギー調査会や環境省の中央環境審議会の議論などとともに反映される。

http://mainichi.jp/select/news/20120524k0000m040126000c.html