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”「地図のない分野」で、必死にもがいている身から、一言だけ言わせていただければ”

以下、メモのため内部被曝 (扶桑社新書) 肥田 舜太郎のアマゾンのページから抜粋。id:sivadのブックマーク経由。地図のない研究をしたことのない研究者って結構いるんだよな、これが。


岩清水宏さんのコメント: 投稿日: 2013/02/26 0:56:59:JST 投稿者により編集済み(最終編集日時:2013/02/26 7:00:07:JST)

医学部を出て「詰め込み教育」を6年間もされてしまえば、いろんな意味で、現行の理論に異議をさしはさむ余地が少なくなってしまうのは、仕方の無いことですよね。同じく、医学の末席を汚すものとして、すこしだけ、コメントを残しておきたいな、と思いました。

1.鼻血に関して。これは、結論から言うと、原発事故で十分説明可能でしょう。目の前の鼻血の患者を目にしたときに、あなたのようなアセスメントしか、鑑別診断、メカニズムに想定が及ばない医学教育というのは、いったいどのような6年間を過ごされたのかな、と純粋に不思議に思います。鼻出血のメカニズムは、あなたの仰る凝固系のメカニズムは、全体のケースの中では、ごく一部で、そのほかにも、鼻粘膜局所の炎症(これが一番高頻度でしょうね)、高血圧などの循環器系の原因、などなど、鼻血と聞いた瞬間に、普通は沢山思いつくものだと思いますがね。大気汚染で鼻出血の頻度が上昇するのは、きちんと文献を勉強していただければ、古くは20世紀初頭のイギリスのスタディに始まり、主流学術雑誌をはじめ、各種の学術論文の明記するところです。したがって、放射能汚染粉塵による局所症状、と普通は瞬間的に思いが至る気もしますが。。。もちろん、定量的にも、きちんと説明できますよ。現行の「線量計算」に目隠しにあっていなければ、ですが。

そうそう、今回の原発事故のときも、次のような情け無い議論を耳にしました。事故当時、「超大量放射性ヨウ素投与療法で、1億ベクレルの放射性ヨウ素を投与しても鼻血はでないから、原発事故で鼻血なんて、絶対にありえない」 なんて議論をしていた人がいる、というのを、後から知って、あまりの雑な思考に、腰が抜けかかりました。

1億ベクレルって、一見、普通の人が聞くと、しり込みしそうなほど、「超大量」と錯覚するんだけど、こういうことを議論する際には、きちんと、体内分布密度などを考慮しながら、ちゃんと計算していかないと、変な結論になってしまうんです。 簡単に計算するために、ちょっと乱暴な数字を放り込んでいくけど、血液を5Lとしたら、まず、投与後、その5Lに均一に拡散されるんだけど、 その後まあ、1億ベクレルの大部分は、比較的早期に甲状腺などの特定臓器に再分布したり、大部分は尿中に排泄される。 議論を自分たちに不利にするために、仮に、ものすごーく多めに見積もって、1億ベクレル(10の8乗、つまり、10e8 Bq)の約半分が血中に、ある程度持続して残っているとすると、計算で、血液1cc中の放射能が出せます。割り算するだけです。 <<1億ベクレル投与、なんて言ってても、血液1cc中には、たったの10e4 Bq程度の放射能でしかない>>

今、鼻粘膜のことを議論しようとしてるんだけれど、鼻粘膜と、血液の接点は、毛細血管網という、細い血管のが張り巡らされた末梢血管の部分。 この部分の血管って、医学部、生物学部を出た人間には常識なんだけれど、ものすごーく血管床の表面積が広い。つまり、非常に多数の血管内皮細胞で覆われている。 ちなみに、簡単に試算することができて、毛細血管径を、ざっと7ミクロンとおけば、 <<1ccの血液を溜め込むのに必要な毛細血管の全長は、3x10e4メートルも必要になる>> で、この3x10e4メートルの毛細血管に、どれだけの 血管内皮細胞が張り付いているかと言うと、これに、分布密度の3x10e5個/メートルをかければいい。 <<つまり、1ccの血液を取り囲んでいる血管内皮細胞は、10e10個に上る>>

高々、10e4ベクレルを、10e10個もの内皮細胞が囲んでいるんです。細長い土管としてね。 <<つまり、1秒間に、一つの細胞が放射線でアタックを受ける確率はたったの10のマイナス6乗程度の低い確率でしかない>> しかも、均一に放射性物質が溶けていると仮定できるから、ほぼランダムに、このアタックが起こる。 (ま、ちょっと構造的な部分を計算外としているんで、すこし大目になるかもしれないけれど、桁はそんなにズレてない)

こんなにまばらで、確率の低い放射線だと、血管内皮細胞が細胞死に至るこもほとんどなければ、鼻粘膜炎症が起こることもないでしょう。 百歩譲って、たとえ内皮細胞が障害を受けても、ランダムな場所で内皮細胞がやられているわけだから、すぐに修復される。 だから、放射性ヨウ素超大量療法で、数億ベクレル程度を投与しても、ふつうは、全然鼻血になんかならない。 乱暴な計算だけど、こんなことは、計算すりゃ、すぐ分かるんです。

モデルとして、血液と内皮細胞のことだけ論じたけど、粘膜分泌を考えても、組織間液とか考えても、 粘膜細胞を対象に考えても、基本的には、考え方は同じです。うすーい濃度で、均一に分布しているモデルの場合には、 アタックがランダムに、薄い確率でおこる、ということ。

<<でも、一方、放射性物質汚染微粒子が、鼻粘膜に付着したら、その影響はどうなるか?>> 仮に、微粒子が花粉くらいの大きさだったとして、20ミクロンくらいと想定すると、これって、ひとつの細胞と同じくらいの大きさなんです。 この微粒子が、仮に、たった1ベクレルβ線核種に汚染されていたとしたら、 どういうことがおこるかというと、付着した局所、つまり、この微粒子のごく近傍で、1Bqつまり、1秒間に1回、かならず放射線が、同じ箇所ででて、まあ方向性もあるんだけど、 ほぼこの桁の放射線が、同一箇所をアタックし続けることになるんです。

方や1億ベクレルからスタートしたけど、アタックされる確率は、10のマイナス6乗のオーダー 方や、たったの1ベクレルだけど、1秒に1回とか、そんなオーダー。

そんな高頻度で、同一箇所をアタックされ続けたら、そこの粘膜細胞は死んじゃうし、修復も間に合わない。鼻血が出て当然なんですよ。

すごく乱暴な計算だけど、基本的に、掛け算と割り算だけで、きちんと計算すりゃ、簡単に、インパクトの大小がわかる。 同じ「内部被爆」でも、消化吸収で、均一に分布する場合と、粉塵付着での局所の影響とに、場合わけして考えないといけない。「濃度」なんて概念は、小学校の5-6年生で習うわけだから、小学生にでも十分理解できる思考過程ですよね。 それに、ここで計算に使ったのは、掛け算と割り算だけ。こんな簡単なことって、思考過程と呼ぶのもおこがましい。小学生でも分かるインパクトの大小なのに、 一番上に書いたような議論を持ち出す人って、そんな計算もしないで、「鼻血はありえない」 なんて、いったい、どういう了見なんですかね?

なんか、クソも味噌もごっちゃにして計算してしまうような「線量計算」なんかやっちゃってて、 「外部被爆も内部被爆も一緒です」なんてこと言ってて、体内局在も無視して「総量が大事だ」なんてこと言ってて、そんな計算を推奨するような理論信じちゃってて、大丈夫か~と心配になりますよ。 そんな前石器時代のような理論に、子供の将来を託しているのかと思うと、背筋が寒くなりますね、医学部出身者としては。有名大学を出た、偉い先生のみならず、あなたのような現場のお医者さんからしてこんな感じですから、日本の医学界はどうなってるのか、と暗澹たる気持ちになります。

あの当時、住民を安心させたい、という善意の気持ちから、安心論を伝えたいというのであれば、 頭ごなしに「鼻血はデマ」と否定しないで、「鼻血は、汚染粉塵の局所症状で一時的な問題ですから、安心してください」とか 「鼻血が出ていると言うことは、汚染粉塵を体外に排出しようとしている、良い反応だから安心してください」とか 「あくまで、局所症状で、全身状態に影響は無いけれど、鼻洗浄でもやっておけばいい」とか 「念のため、これ以上汚染粉塵を吸い込まないように、マスク着用を」など、言ってあげればよかったんです。

そういわずして、あまたごなしに、「デマ」と切り捨てていた人が多かったのは、間違いなく、 現行の、論理破綻した「線量計算」に、思考停止に陥らされて、まともな考えが出来ていなかったと言う証拠ですね。

鼻血のことだけを議論したけれど、実は、このようなパターンの内部被爆の場合、真剣に考えておかないといけないのは、 「慢性持続内部被爆」の影響、という問題なんです。時々、「低線量被爆」なんて言葉に、マスコミで置き換えられている議論。

「低線量」か「高線量」かが問題なのではなく、一番の問題は、「急性で終わってくれるか」「慢性に持続する内部被爆かどうか」という問題。

医学部を出た人間には常識だと思いますが、A型肝炎というのは、全く怖くない。 急性期に、ドカンと肝臓が炎症を起こすが、休んでいれば、肝臓も再生されて、元通り。肝硬変、肝癌なんかにはならない。 ところが、B型C型肝炎の怖いのは、たとえチョロチョロと持続する炎症でも、 長期には、肝硬変に至り、肝癌にも高率でなってしまう。 「急性炎症=全然怖くない」「慢性持続炎症=いろんな障害を引き起こし、怖い」ということ。 近年、癌に限らず、糖尿病研究でも、神経変性疾患でも、難病研究でも、「慢性持続炎症」が注目されている所以です。

にも関わらず、現行の理論を信奉する人間って、相変わらず、「急性大量被爆の方が危ない」なんて、とんでもないことを言っている。 ちょっと、医学者・医者としての常識を疑います。 もう少し、現行の理論をdisっておきますが、「預託線量」という薄っぺらい考え方があるんですが、あれなんかも、急性も慢性もごっちゃにして、全く人体へのインパクトを推測すらできていない。 あんな考え方は、見た瞬間に、マヤカシだと、卑しくも医学部を出た人間なら、気が付いてほしいです。

放射能汚染粉塵の議論の場合、急性期のことだけを考えると、鼻血の問題を議論し、局所症状だから、と安心してもらえばよかった。

肺の奥の方に吸い込んだものがあったとしても、おそらく、9割は、一時的な炎症で終わり、痰として排出されるか、 寝ている間に、繊毛運動で、気管から排出され、消化管を下って、体外に排出される。

ただ、万一、肺の奥底に、沈着してしまう粉塵があったら、その局所で、慢性持続炎症の温床を作り出してしまう懸念が生じる。

鼻血のときに、1Bqでも鼻血につながる、と議論したけれど、同じことです。

現行の「線量計算」では、とてもじゃないが、インパクトの大小関係は推測すらできない。

ちょっと有名な、Tondelの論文というのがあって、統計処理に突っ込みどころも少々あるのですが、 スウェーデンの、汚染地区で、肺がんの発症率が、予想以上に上がった、というデータがある。 あのデータは、「線量計算」が大好きな人間には、とても理解できないデータだったので、浅はかな思考をする人間には 切り捨てられたんだけれど、何度も言っているように、人体へのインパクトって、 現行の「線量計算」では、まず、到底、正確には推測できないんですよ。まともな思考回路を持っていれば、こんなことは3.11以前に気が付かないとおかしい問題です。

大体、原発事故後の内部被爆は、上記のように、慢性持続内部被爆が問題になるだろうな、と少しの頭があれば、すぐに想像ができるはずなのに、 「慢性内部被爆」をきちんと実測して、発ガンとの関係をきちんと調べた調査がゼロである現状で、いったい、どうやってそんな、ゼロエビデンスの、正当性を担保されていない理論 を、大部分の医学者・医者が、信じることができているるのか、不思議でしょうがないです。そのゼロ・エビデンスの元で、何ミリシーベルトだとかなんだとか、ひたすら計算のための計算をやり。下手の考え休むに似たり、とはこのようなことを言うのでしょうね。 エビデンスがある、なんて馬鹿なことを言っている医学者は、もう一回医学部をやり直した方が良い。急性内部被爆のデータばかりを持ち出しても、全く原発事故のインパクトを推測する根拠にはなりえません。 いや、さんざん、学者の間で、100ミリシーベルト以下の発ガン率が何パーセントか、LNT仮説が、、、とかいろいろ議論してますが、すべて外部被爆のデータ、百歩譲って内部被爆のデータに関しては急性被爆のものばかりしかなくて、いったい、慢性内部被爆の何を知れ、というのでしょうね?あのような議論に時間を割いている識者がいるというのが、不思議でしょうがないです。

私に言わせれば、一生懸命、実行線量を計算して、線量計算なんてのをやっているのは、「字画占い」を信じているのと同じくらい非科学的な態度です。 ちなみに、姓を「馬鹿三」、名を「悪魔」と入れて、字画占いをやると、運勢は吉とか大吉とか出てきます。おかしな話ですよね。 字画の「総量」なんかより、名前に込める一字一字の意味のほうが大事だと思いませんか?

線量計算も同じですよ。どのような被爆で、どのような体内分布になり、それが局所的影響なのか、全身の影響なのか。急性期の影響なのか、慢性持続の影響なのか。 はたまた、消化吸収されるとすれば、生体内に分布されたあと、どの生体分子と、どのような相互作用があるのか。ひとつひとつ、丁寧に思考していかないと。 全部ごっちゃにして、「外部被爆も内部被爆も一緒です」なんて考え方、将来きっと、笑われちゃいますよ。

それから、核種によって、良いα線、悪いα線があるはずが無い、なんて、簡単に仰っておられますが、きちんと考えれば、いくらでも、そういうモデルは考えられるんですよ。 たとえば、ラドンのような希ガスは、体内に摂取されても、ひとところにとどまることなく、均一に薄い濃度で分布しますから、上記の鼻血(汚染粉塵)vs放射性ヨウ素の議論の喩えとおなじように、 生体に与える影響はα線核種の割には、極小でしょう。一方、トリウムなどは、肝網内系に沈着し、局所で持続的に慢性内部被爆の原因となり、局所慢性持続被爆の温床となってしまいます。 トリウム内部被爆で、高率に肝臓系の発ガン率が見られることの、ひとつの理解の仕方です。 決して、安易に、あやふやな前提の下に作られた「実行線量計算」なんてのに、頼らないで、丁寧にメカニズムを理解していただきたいなあ、と思います。

もっと言いますと、中途半端な知識の方は、原子核物理学の法則が、絶対不可侵のものだと錯覚しておられるかもしれませんが、現在の原子核物理学の法則は、 すべて、原子核が「気体」の状態での観測・実験データを元に作られています。 原子核が、固体中に、堅く足場固定されたときに、放射性元素が崩壊を起こすと、実は、現在の原子核物理学の理論の延長線上では説明のできないような、 非常に興味深い挙動を示すことが知られているのですが、こういった分野は、ほぼ、一部の例外を除き、全くの手付かずです。

つまり、上記に立て続けに、体内分布の問題を例にあげましたが、体内分布が同じ場合でも、つまり、たとえ、体内に均一分布をする核種同士であっても、 核種によって、当然、生体内分子との結合・相互作用という挙動が変わるわけですから、どの生体分子と結合している際に、 どういう崩壊を起こしたら、どんな影響が起こりうるのか、というのは、全くの未知の分野なのです。 医学の最新知識をもって、非常に丁寧に考察を重ね、今後、何十年かに渡り、実験・実証を繰り返し、新しい研究分野を切り開いていかないといけない状況なんですよ、内部被爆のことをきちんと理解しようとすれば。

実際、セシウムの極く微量の内部被爆で、心臓伝道路の障害が高率に起こる、というデータを、Bandazhevskyが発表していますが、 丁寧にメカニズムを考察していけば、彼のデータは綺麗に説明できる可能性が高く、やはり、現行の理論では、全く何も生体へのインパクトを推測できていない、という、実例のひとつになって行くでしょうね。

最後に、医学者として、別分野ではありますが、「地図のない分野」で、必死にもがいている身から、一言だけ言わせていただければ、「教科書に書いてあることがすべてはない」 特に、慢性内部被爆のように、ほとんど、調査もされていない学問分野では、沢山疑ってかからないといけないテーマが、山積みなんですよ。 ちょっと医学の常識があれば、放射線医学の教科書は、何も我々に教えてくれない、ということくらいは、すぐに気が付きそうなものだと思いますがね。