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… あるいは http://d.hatena.ne.jp/kmiura/ …

原電のいう「海外の専門家」

【日本原電・敦賀原発】 海外コンサル、わずか1日の現地調査で「活断層ではない」 http://tanakaryusaku.jp/2013/05/0007139

「海外の専門家」ってどんな人だろう、ということで少々サーチ。

20130522 Niel Chapman氏の素性を追記

調べた結果の印象を先に。「リスクマネジメント会社の「SCANDPOWER」(本社ノルウェー)と英国シェフィールド大学のNeil Chapman教授をリーダーとする地質関係の専門家グループ」というのはかなり盛り過ぎ。

実態としてはリスク計算をするソフトの開発者である日本在住のエプスタインさんと、地震・断層の研究はおろか、地学部自体が25年前に閉鎖されたシェフィールド大学の客員教授で核廃棄物処理専門家のチャップマンさんのチームが現地調査を行い、ニュージーランドの地震学の権威ベリマンさんが一日だけ現場を見に行って「活断層かどうかわからない」という結論を出した、ということになる。

Steve "Woody" Epstein (Scandpower)

「駐日原子力コンサルタント・マネージャー」とのこと。

他の「グローバル原子力ディレクター」の人とかと並んで写真に収まっている。

専門は、というとリスクアセスメントの専門家で確率的安全評価のソフト(RiskSpectrum)を作っているらしい。(ブログ記事

発表パワポのスライド。外国向けには「日本通」としてふるまっているらしきことがスライドから伺われる。奥さんがおそらく日本人。

で、Vimeoでご本尊が東京の自宅(らしき場所)でしゃべっているところも見られます。 http://vimeo.com/39952746

Scandpowerというロイズ関係の会社の日本駐在員ということか、と思っていたら、他にもABSコンサルティングという会社の"Acting Operations Manager, Japan"、まあ、要はこれも日本駐在という仕事なのだろう。この会社の業務は

自然災害・人的災害のハザード及びリスク分析、評価、マネジメント/地震リスクデューディリジェンス/構造解析・設計コンサルティング/危機管理及び防災計画/確率論的安全性(信頼性)分析評価(PSA)/ソフトウェア/第三者機関として検査・検証/ボイラー・圧力容器指定代行検査・検証/マリンサービス/船舶及び港湾施設のセキュリティ計画作成支援及びトレーニング/土壌環境リスク評価

とまあ、なんでもやっているらしい。

住所は

〒221-0052 神奈川県横浜市神奈川区栄町1-1 アーバンスクエア横浜10階

一方でScandpowerは

Visit/Postal: Queen's Tower A, 9th/10th Floor, 2-3-1, Minatomirai, Nishi-ku, Yokohama, 220-6010, Japan

ということで、横浜に事務所が2つある、ということになる。

...断層を眺めてなにかわかりそうな人ではないのはともかくも「海外の専門家」ってなんかアレですな。

Kelvin R Berryman (GNS Science)

こちらは本格的な地学者らしく、サイエンスに2012年の論文。

Berryman, K.R.; Cochran, U.A.; Clark, K.J.; Biasi, G.P.; Langridge, R.M.; Villamor, P. 2012 Major earthquakes occur regularly on an isolated plate boundary fault. Science, 336: 1690-1693; doi: 10.1126/science.1218959

ニュージーランドでは「地震の権威」ということらしい。

APの5月21日付記事によると、「活断層かどうかまだ十分なデータがない」とこの方は言っているのだが。

The Associated Press Tuesday, May 21, 2013 | 9:30 a.m. Experts commissioned by the operator of a Japanese nuclear plant that faces possible closure because of a suspected active seismic fault say a decision should wait, citing insufficient data. Tuesday's request came a day before Japan's nuclear watchdog is to rule on the future of the Tsuruga No. 2 reactor in western Japan. The watchdog's own panel said last week that the reactor most likely sits on an active fault and shouldn't restart. Operator Japan Atomic Power Co. disputes that view. The decision is being closely watched as the pro-nuclear government moves to restart plants suspended since the Fukushima nuclear crisis. A geologist at New Zealand's GNS Science who led the utility's study, Kelvin Berryman, said neither side has provided enough data to determine whether the fault is still active.

これがどうして「活断層ではない」(下の記事参照)になるのか、まあ、不思議なことである。

敦賀原発直下「活断層ではない」 第三者組織が報告書▼2013.5.21 19:22▼原子力規制委員会の専門家調査団が活断層と評価した、日本原子力発電敦賀原発福井県)の敷地内の断層について、原電の依頼を受けて第三者の立場から同断層について調査した海外の専門家などによる検討チームの中間報告が21日まとまり、公表された。中間報告では断層は活断層ではないとした原電の見解を「支持する」としながら、確定的な結論には「より広い範囲を調査する必要がある」とした。▼検討チームは海外の専門家を中心に12人からなり、今年3月から現地調査を行うなど、独自に断層の活動性の有無を検証してきたという。▼検討チームのメンバーの1人で、地質学者のケルビン・ベリマン博士は「非常に限られたデータしかないが、現時点では活断層はないと考えられる。活断層であることを示すデータは一切なかった」と述べた。 http://sankei.jp.msn.com/life/news/130521/trd13052119230009-n1.htm

Neil Chapman (Research Professor of Environmental Geology, University of Sheffield)

核廃棄物の専門家。シェフィールド大学教授、と紹介されているがこれは経歴的に盛り過ぎで、後述のように客員教授。メインは核廃棄物処理に関する出張講義を行うスイスの学校の経営らしい。なお、こちらのツイッター情報経由でいろいろ眺めた。

略歴▼現在スイスに在住のニール・チャプマン氏は、英国シェフィールド大学、土木構造学部、環境地質学科の教授であり、いくつかの国内及び国際放射性廃棄物処分計画の顧問を務めている。 「真に最終的な廃棄物管理法 非常に深いボーリング孔処分は、高レベル廃棄物や核分裂性物質のための現実的なオプションか?」ニール・チャプマン、ファーガス・ギブ Radwaste Solutions 2003.7-8

以下英語でもっと詳しく。

Personal Profile

Neil is an expert in the scientific and strategic aspects of the impacts of environmental pollution, drawing on extensive academic and industrial expertise. Through his expertise in the deep and shallow disposal of radioactive wastes, Neil has advised the highest levels within UK and international industrial and governmental organisations.

Neil brings invaluable specialist insight through his participation in numerous national and international committees concerned with the environmental impact of radioactive waste and in the technical management of internationally funded projects.

Neil’s career highlights

  • 30 years experience in scientific and strategic aspects of radioactive waste disposal

  • Leader of the Fluid Processes Research Group, British Geological Survey

  • Chairman, INSITE international advisory committee, tracking a site characterisation programme for Swedish used nuclear fuel

  • Advisor on the International Technical Advisory Committee, part of the repository project implementation project for Japanese High Level Wastes

Integral to the IDM team, Neil currently holds many eminent positions including Research Professor of Environmental Geology, University of Sheffield, Programmes Director of Arius (Association for Regional and International Underground Storage) and Chairman of the ITC School of Underground Waste, Storage and Disposal. He has been a member of the Natural Environmental Research Council’s Earth Science and Technology Board, and a visiting expert on behalf of the IAEA to South Africa. http://www.idmsolutions.co.uk/content.php?pageID=9

キャリア・ハイライトの部分は以下のごとし。

  • 核廃棄物処理に関する科学的かつ戦略的な面での30年の経験
  • 英国地学調査部の流体過程調査グループリーダー
  • INSITE国際アドバイザリー委員会委員長、スエーデンの使用済み核燃料の処理場分析プログラムの顧問
  • 国際技術アドバイザリー委員会アドバイザー、日本高レベル廃棄物処理場実行プロジェクトの一部

肩書きとしては

  • このサイトの会社Integrated Decision Management(IDM)のチームメンバー。核廃棄物処理の戦略を立てるコンサル会社。
  • シェフィールド大学環境地学の研究教授(リサーチプロフェッサー)
  • 地域および国際地下貯蔵組織(Arius)のプログラムディレクター
  • 地下廃棄物・貯蔵・廃棄処理ITC学校のチェアマン
  • 自然環境研究議会の地球科学技術役員
  • 南アフリカにおけるIAEA委託の客員エキスパート

大学教授かあ、と思って研究室のサイトを探したがどうもみあたらんので共同研究者の方面から探したらあった。

http://www.shef.ac.uk/materials/staff/visiting

材料科学・工学部(上記では土木構造、となっているがうーむ。)の客員教授として名前がリストされている。関係するとおもわれるのは、核廃棄物のガラス固化技術の研究だが、その関連で特に名前はみあたらない。まあ、断層の専門家ではないことは確か。そもそもシェフィールド大学の地学は1989年に閉鎖されており記念碑的なサイトしかない。化石学がかろうじて残っているとのことである。この大学に現在地層や地震の研究は見当たらない。

さて、客員リストにある所属先はスイスのITCとなっているので、そちらをみてみたが http://www.itc-school.org/ アクセスできない。まあ、なんか由緒不明な方である。 ITCに関しては日本語の書類がある。

筆者は、ITC(最終処分国際研修センター)注)が、2008年9月2日から5日に米国ラスベガスにおいて主催した放射性廃棄物処分に関する研修コース「高レベル放射性廃棄物の地層処分」を受講する機会に恵まれた。今回の研修コースでは、地層処分の基礎や諸外国における放射性廃棄物処分の検討状況の網羅的学習と受講者同士のディスカッションに主眼が置かれたものである。また、4日間の研修の初日に、米国の高レベル放射性廃棄物処分場であるユッカマウンテンへの見学ツアーが組まれており、米国の処分概念や検討状況について情報収集する機会があったので、本稿にて報告する。注)ITCの正式名は、ITC School of Underground Waste Storage and Disposalで2003年4月にスイスで設立された放射性廃棄物の最終処分に係る非営利の国際的な教育・トレーニング機関である。ITCに関する詳細は以下の英文サイト参照。 http://www.itc-school.org http://www.rwmc.or.jp/library/file/topics_No88_web.pdf

出張授業とかする学校であることがわかる。結論から言えば、断層が活動している否かを判断する専門家とはいえないだろう。

リンク

この件に関して調べている方々。