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平成13年度委託研究報告書 電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討 (抜粋)

平成13年度委託研究報告書
電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討
平成14年3月
主任研究者 草間朋子(大分県立看護科学大学)
共同研究者 朝長万左男(長崎大学)
明石真言(放射線医学総合研究所)
甲斐倫明(大分県立看護科学大学)
桜井礼子(大分県立看護科学大学)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d1.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d2.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d3.pdf

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/s1023-4.html

(報告書抜粋 p15-17)

3. 放射線被曝に伴う確率的影響とPCの考え方

3-1. PCとは

PC(原因確率)は、個人に罹患した疾病とそれをもたらした原因との関係を定量的に評価するための尺度である。リスクが、将来の発生確率を予測することを基礎にしているのに対して、PCは、結果があって、その結果を引き起こした原因の占める割合(etiologic fraction)を意味する概念である。しかし、評価に用いる疫学データの限界から、直接個人を対象とした尺度としての確率というニュアンスを避けるために、Assigned share(Kagakos, 1986)やAttributable fraction (Greenland, 1988)という用語も使われてきた。PCという概念とそれをいかに評価するか、評価した数値の不確かさからくる適用の問題点など多くの論争が行われてきている(Thomas, 2000; Greenland, 2000)。

3-2. PC推定の問題点
Greenland (1999)は、疫学調査から得られる過剰相対リスクをもとにした評価値(=r/(1+r))は、PCと等価と考えるのは間違いであることを強調する。
Greenlandらは、個人PCを疫学データのみから推定することは不可能であることを論証している。集団からの情報のみを利用している場合には、PCという用語は適切ではなく、excess fractionあるいはassigned shareと呼ぶべきであると主張する。また、PCの評価には生物学的モデルが不可欠であることが前提となっていることを認識すべきであると主張する。
一方で、RobinとGreenland(1991)は、期待余命損失(Expected years of life lost)のりようが合理的な補償方式であるという見解である。

現在のPCを補償スキームに用いることの問題点は次のようにまとめられる。
1)非特異的疾患における因果関係の問題、3)に関係する問題と考えることもできる。
2)疫学データだけに基づいて個人の原因確率を評価することは不可能である。集団の平均値を個人に当てはめるには集団内の不均一性が問題とされる。PCの不確かさとして扱うこともできる。
3)発がんにおける放射線の関与の仕方によって異なるPCを与える。したがって、放射線発がんの生物モデルを前提にして初めてPCは評価可能である。
4)原因確率が評価可能であるとしても、補償スキームとしては適切ではない指標である。これは40歳と80歳のPCが50%としたときに同じ扱いをされるのは余命損失を考えると合理的ではない。

3-3. 最近の動き
PCの様々な問題が指摘されて入るが、現実の訴訟に対する解決策としてNCRPもPCの利用可能性を認める見解をだしている(NCRP, 1992)。

(1)米国
1985年にNIHが作成したPC表の改訂作業が進められている(Department of Health and Human Services, 2001)。この改訂の主たる変更点は、従来の死亡率に代わって発症率を用いたPCの計算である。IREP(Interactive RadioEpidemiological Program)と呼ばれる評価のためのプログラムが作成されている。これは、Energy Employees Occupational Illness Compensation Program(EEOICPA)に基づいて申請のあったがんのPCを評価するためのプログラムの開発(NIOSH-IREP)をNIHの共同で行なっているのが国立職業安全衛生研究所(NIOSH)である。

(2)英国
英国の原子力産業界は、操業初期に比較的高い線量の被ばくした作業者に現れたがんと放射線被ばくとの関係についての訴えを処理するために、PCに基づいた「放射線関連疾病の補償スキーム」を自主的に確立した(Wakeford, 1998)。これによると、PCが50%以上では全額保証し、20%以上ならばPCの値に応じて部分保証を行うというものである。この補償スキームは、あくまでも雇用者と被雇用者との間での合意に基づいて実施されるものであり、作業者が裁判所に訴訟を起こさないことを強制するものではない。PC評価は、BEIR-Vのリスクモデルを採用している。

4-4. PCの推定例
白血病のPCを、原爆被爆生存者データ(Preston, 1994)をもとに評価した結果を図に示す。線量反応関係については、AMLに関しては直線2次であるが、ALLおよびCMLについては直線となっている。被ばく後の時間反応解析では、Prestonらは対数線形モデルを用いている。PCの計算ではPrestonらが原爆データに当てはめて得られたハザード関数のモデル(Background rateおよびExcess rate)を用いた。被ばく後10年までは、統計的変動に伴う不確かさが大きいところに留意する必要がある。


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文献

Beyea J, Greenland S (1999) The importance of specifying the underlying biologic model in estimating the probability of causation. Health Physics 76(3): 269–274.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10025652

Greenland S, Robins JM (1988) Conceptual problems in the definition and interpretation of attributable fractions. American Journal of Epidemiology 128(6): 1185–1197

http://aje.oxfordjournals.org/content/128/6/1185.full.pdf+html?ijkey=ec0cc4ecc31b3db44b3bcf3b34a271bde25a92b1&keytype2=tf_ipsecsha

Greenland S (1999) The relation of the probability of causation to the relative risk and the doubling dose: A methodologic error that has become a social problem. American Journal of Public Health 89(8): 1166–1169.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10432900

Lagakos SW, Mosteller F (1986) Assigned shares in compensation for radiation-related cancers. Risk Anal. 1986 Sep;6(3):345-57.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3602505

NCRP; The probability that a particular malignant may have been caused by a specified irradiation. NCRP Statement No.7, 1992
http://www.ncrponline.org/Publications/Statements/Statement_7.html

D.L.Preston et al. : Cancer incidence in atomic bomb survivors. Part III. Leukemia, lymphoma and multiple myeloma, 1950-1987. Radiat, Res. 137 (2 Suppl) : S68-S97 (1994)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8127953

Robins JM, Greenland S (1991) Estimability and estimation of expected years of life lost due to a hazardous exposure. Statistics in Medicine 10: 79–93.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2006358

Wakeford R, Antell BA, Leigh WJ (1998) A review of probability of causation and its use in a compensation scheme for nuclear industry workers in the United Kingdom. Health Phys. 1998 Jan;74(1):1-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9415576

Department of Health and Human Services, 42, CFR Part 81 GUIDELINES FOR DETERMINING PROBABILITY OF CAUSATION UNDER THE ENERGY EMPLOYEES OCCUPATIONAL ILLNESS COMPENSATION PROGRAM ACT OF 2000; Notice of Proposed Rulemaking, 50967 Federal Register / Vol.66, No.194 / Friday, October5, 2001

http://www.gpo.gov/fdsys/search/pagedetails.action?browsePath=Title+42%2FChapter+I%2FSubchapter+G%2FPart+81&granuleId=CFR-2006-title42-vol1-part81&packageId=CFR-2006-title42-vol1&collapse=true&fromBrowse=true